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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)104号 判決 1952年1月18日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人鍛冶利一、同和智昂の上告理由第一点について。

上告人は昭和一一年五月一六日本件家屋を昭和二一年一二月二〇日迄の約束で被上告人に賃貸したのであるが、この賃貸借は昭和二一年六月二日上告人が自己使用の必要から被上告人に更新拒絶の通知をしたため期間の満了によつて終了したものである。かりに右更新拒絶について正当の事由が具つていないため右賃貸借が借家法二条によつて法定更新されたとしても、上告人は自己使用の必要から更に本件訴訟中即ち昭和二二年一一月二八日に解約の申入をしたから、その日から六月を経過したことによつて本件賃貸借は終了したものである。というのが原審における上告人の主張であつて、このことは本件記録によつて明である。

右上告人の主張に対し原判決は右更新拒絶の通知は通知の日以後賃貸借期間満了の日までの間に存在した事実からしては、正当事由が具備されたとはいえないとして本件賃貸借契約の法定更新を認めた上、借家法二条にいう「前賃貸借ト同一ノ条件」の中には前賃貸借契約における期間の定めも含まれているとの見解の下に、原判決は上告人が本件訴訟中した前記解約の申入によつて賃貸借が終了するか否かに関する上告人の主張については判断を加えなかつたのである。

借家法は、建物の賃貸借に関して、民法の賃貸借に関する法規に対して特別法規をなすものであつて、賃貸借の期間満了の際における更新に関しても借家法は或は一条ノ二において正当の事由の存在を必要とし、或は二条一項において更新拒絶の通知についての期間の定めをする等特別規定を設けているのであるけれども、借家法に特段の規定のないかぎり、建物の賃貸借についても民法賃貸借に関する一般規定の適用のあることは、いうまでもないところである。

借家法二条一項の規定も、「更新拒絶の通知を為すべき期間」「条件を変更するにあらざれば更新せざる旨の通知」の効力及び「前賃貸借と同一の条件を以て更に賃貸借を為したるものと看做す」等の点において、民法第六一九条本文の規定に対する特別規定たる関係に立つものであるが、同条但書の規定に関しては、借家法は、別に何等の規定を設けていないのみならず、借家法の規定全体の趣旨からみても、特に右但書の規定を排除すべき法意は、これをみとめることはできないのであるから、借家法の適用を受ける建物の賃貸借についても、民法六一九条但書の規定は、その適用あるものと解しなければならない。すなわち、本件の場合においても、原判決のごとく、上告人のした更新拒絶の通知はその効力なく、本件賃貸借は前と同一条件を以て更新されたものとしても、上告人は、さらに、正当の事由あるかぎり右賃貸借解約の申入をすることができるものと云わなければならない。

然らば原判決は右関係法規の解釈を誤つた結果、上告人の本件賃貸借に対する解約の申入の主張について、判断を示さなかつた違法あるものと断ぜざるを得ない。

よつて上告を理由あるものとし、その余に対する説明を省略して民訴四〇七条により、全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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